Part 8 モニュメント建設

このように,またそういった方法でつくられていったカサ・ミラは市役所へ提出されも図面とは随分違ったものとなったのである。


建築申請用の図面


ブランでは間仕切りのカーブが多角形に置き換えられている。しかしカサ・バトリョのブランが角を丸く削り落としているというのに対して(もっともこの方は修復であるということもある)カサ・ミラはあくまで曲線からの草案であることが明らかである。その変更の理由は確かにされていないが,恐らくは施工時間の短縮にあるだろう。彼はその作品の手工芸的な味わいとは別に,建築の工業化や新材料の導入といったことに必ずしも無頓着ではなかった。グエイ公園の門番小屋の屋根ではスペインで始めての建築への導入と考えられている鉄筋コンクリートを使っているし,ミラージェス邸の門ではその屋根にメタル・ラスを入れたセメント瓦というものを発明しているし,その若年ですら港のブロムナードに計画したモニュメンタルな街灯計画では電気技師との協同で電灯を据えているし,まだ市壁のとれていなかったバルセローナで,無防備な港風景すら描いているのである。 彼は幾何学の研究にその晚年を費やすが,幾何学は建築を複雑にするのではなく,建設作業を容易にするものだと考え,複雑な自然主義的な曲線を幾何学形に置換して建設作業の簡略化に努めている。(それをもっともよく表わしているのはサグラダ・ファミリア教会のガウディ没後建設の部分で,彼の幾何学応用のシステム化によって現在建設が可能となっているのである。)力サ・ミラの床のためにデザインしたパーケットも同様で,不整形な床面それに円柱,角柱などに対してブレファブ化が最大限に可能なような形状が考えられている。しかしガウディの場合,技術が空問構成を支配するのではなく,あくまで空問構成に助力するものとして技術があることが,これにも見い出せよう。もうひとつの大きな設計変更はファサードにある。それは図面上は現われない水平線の強調であり,塔と宗教的なレリーフの剝落である。水平線の強調は模型あるいはノミを入れる段階に,鉄筋が張られた時に変更され,この建物全体のイメージである海の波を水平線の強調に表現したのであろう。同様にバルコニーの肉厚な原案もコーナー部入口上のトリビューンを除いて実施段階では鉄細工に置き換えられ,海草を表現している。塔と宗教的なレリーフは,バルセロナにモ二ュメントが欠けることを嘆いており,これでもつて都市シンボル化させようと考えていたのであるが,塔は模型段階で削られ(理由は明らかではない)宗教シンボルは施主の申し出によって設計変更された。これはガウディをカサ・ミラの建設から手を引かせることになったほか,彼の人生のうえで大きな波紋を投げかけることになるのだが,これについては他稿で触れているので省略する。

コーニス部分だけではなく、ありとあらゆるところに文字が刻まれている 全てがキリスト教でのおまじないでもあるかのよう


続く

A+U

1979年5月号より