Part 9 ル・コルビュジェの評価


1908年建設中のカサ・ミラ(ラ・ペドレラ)

構造はガウディ自身が語っているように,平面構成の変更が容易なように円柱でサポートし、これをパーティションで分割するというものである。その柱も3種類あり,荷重の大小と計画上での断面の大小などにより臨機応変に使い分けられている。一番多く使われたのがボートランド'セメントで目地を埋めたレンガ柱で,断面を縮少したい場合には切石積み,それに時には鉄柱も使われた。これに鉄骨を架け渡して大梁とし,それに小梁を架け,更に平レンガを简状のヴォールト状に張り,下部に鉄筋で引張りを加えてスラブとしている。また円形パティオは図のような興味深い金輪がスラブを構成している。
後年ここを訪れたル・コルビユジエが「何と構造の凄まじい支配であろうか。」と言ったように,もっとも構造的な漸新なおもしろさは,パラボラ・アーチを連置して築かれた屋根裏階(現在の賃貸アパ—トメント,当時の使用人部屋)であろう。スパンの違いから,せいの高低を生み,曲がりくねってゆくさまは,人を鯨中のピノキォに変えてしまうのである。
この童話的なファンタジーは屋上の煙突群で頂点に達する。屋根裏階のパラボラ・アーチの高低差は屋上のスラブにそのまま起伏となってあらわれ,そこにエレヴエータ・タワーや階段室,マントルビースの煙突や換気用の煙突がさまざまな表現をつけられて並んでいる。この種の遊びはガウディの空問を特色づける大きな要素となっているものであり,我々がすでに忘れてしまったものでもある。バルセローナの前衛彫刻家スビラックスはカサ・ミラを「実現された最大のアブストラクト・スクラプチャー」と呼んでいる。
ファサードは無論のこと屋上の煙突をはじめエントランスの天井絵,バルコニーの鉄細工,波打つ天井,レリーフにゆれ動く建具,地・海・空を表現した床タイル,そしてそれらが生み出す柔らかな住空間のアブストラクト。しかもそれはガウディの人生と折り重なつたところから,テクノロジーにおし殺されることなく,既成の審美眼に犯されることなく,しかも人間が支配しえない自然の法則に調和して生まれたものであり,また今も多くの生活を包み込んで生き永らえ,生き永らえていくだろうところがおもしろいではないか。

A+U

1979年5月号より

屋上


パティオ