グッゲンハイム美術館

ビルバオという街

フォスターの地下鉄

ビルバオは今、ノーマン・フォスターの地下鉄、サンティアゴ・カラトラバの歩道橋を完成、またカラトラバの空港も建設中で、10月3日にはゲーリーがグッゲンハイムを完成させた。
バスク地方の主要都市であるビルバオには20年前以上前に行ったことがある。正確には高速から街に降りようとしたが、灰色に淀んだ街並み、スモッグ、大型トラックという工業都市の活気に気を殺がれてそのまま高速に戻って次の街へ行ってしまった。とても観光などするようなところではなかった。
現在の街の中央にはネルビオン河が流れ、市域を越えて河口まで延々と工場が建ち並んでいる。この河はRias de Bilbaoとも呼ばれ、地理的にはリアス式海岸が内陸へ深く切り込み河につながり、大型船が16kmの内陸にあるビルバオまで入り込めるため、造船業、製鉄業が栄えたところである。しかし谷間のような狭い場所に大型の工場が建ち並び、左手には労働者住宅、右手には経営者の住居地区が狭いところに混在して建ち並んでいてスペインで一番住みにくい街として知られている。同時にスペインでも有数な工業地帯、また、バスクの分離地方主義武装テロ団ETAでも知られているのがビルバオである。

ビルバオ・リア2000年計画


グッゲンハイム美術館のあるサイトはネルビオン河に面し、高速へと続くプリンシペス・デ・エスパーニャ橋(Principes de España)に隣接している。この橋からエウスカルドゥーナ橋(Euskalduna)の一帯約346ヘクタールはアバンドイバーラ(Abandoibarra)地区と呼ばれ、国鉄のコンテナー置き場や造船所のある旧工業地帯で、現在進行中のビルバオ・リア2000年計画の一部になっている。ビルバオの現在の人工は約37万、リア・デ・ビルバオに沿って隣接するいわゆるグレーター・ビルバオは百万人前後である。80年代に始まった造船、製鉄業界の不況はビルバオの経済力に大きな影響を与えていった。一時は150万近くにふくれあがった人工は業界の不況を反映して5割近くも減少してしまった。アバンドイバーラ地区はまさしくここ10年のビルバオの衰退を象徴するような地区である。
93年にはスペイン内外から5人が招待され、指名コンペが開かれ、この一帯を再開発計画を立てることになった。プログラムの主な内容は既存の隣接する公園(Doña Castilda de Iturrizar)を拡張し緑地面積を増やすこと、河に沿って走る鉄道を含めたウオーター・フロント計画などがあった。審査の結果は地元の建築家やボフィールなどを退け、アルゼンチン出身アメリカの建築家シーザ・ペリの案が入選している。ペリの案はシンプルでありながら、既存の都市を読み取り、将来の市心にふさわしいデザインだった。計画の概要は8万㎡のオフィス・スペース、2万5000㎡のショッピング・センター、ホテル、800戸の住宅、15万㎡の緑地、全長3kmの散歩道などからなっている。
この開発には第三セクターであるBilbao Ria 2000が当たり国鉄、港湾委員会、バスク自治政府、県、市の参加している。ビルバオを忌まわしい公害と結び付けた工業都市から第3次産業都市へと変えて再生させる原動力にしようとしている。昨年にはPeter Colemanがショッピング・センターのコンペに勝ち、これが全体計画をレイアウトしたぺリに気に入れられず、着工を急いでいる公園部分もペリは余り乗り気ではないらしい。一説には彼の奥さんがダイアナ・バリモリというランドスケープ・デザイナーで、彼女に仕事を与えたいからだという噂もある。

建築
メイン・アクセスは河とは反対の街の中心イアパラギーレ通りに向いている。

輝き、しわのある外装
建物として見た場合、なにが一番面白いかというとやはり彫刻的なこの外装がいかにして施工されたかということだろう。構造は鉄骨。メインフレームは内部空間、外部の表現とともになるべくこれに近い形で組まれた。使われた鉄骨の数は約30万、これをタイプ別に分けると25万種類になった。フレームにはさらに水平方向に角棒が3mおきに取り付けられる。
この水平部材にC型鋼がファサードの面とは垂直に取り付けられ、これで奥行きの調整がされ、先端にはパイプが水平方向つけられメインフレームの直線からよりカーブに近い形に置き換えられていく。具体的には無数の曲線で構成される最終的な形を3mの長さに対して最大4種類の径に絞っていくというのがこの2次部材の果たす役となった。
3次部材は60cm間隔で垂直方向に取り付けられる。2次部材も3次部材も工場でカーブが付けられ、これを測量器で位置だししながら取り付けていくというものだ。このプロセスのなかで活躍したのが普通は航空機などのように微妙な形を要求されるデザイン設計に使われるクンピュター・プログラムCatiaが彫塑的で複雑な面を解析した。
構造材が組み立てられた後、2mmの亜鉛めっき板が張られ、この内側には断熱材外側には防水層、そして仕上げのチタンが張られる。
チタンはアメリカ製、これをイタリアで加工している。チタンを仕上げ材として選ぶまでにゲーリーは鉛、銅、アルミ、亜鉛版など、または色も研究されたが最終的に色彩、テクスチャー、光に対しての反射性、そして対候性、加工性などのこの材料のもつ特性を選択の基準にした。この取り付けは鉛、亜鉛版などが中世からカテドラルの屋根仕上げ、コーニスの雨仕舞いとして使われる時の工法と基本的に変わらないが、二方向に逃げなければいけないためにパネル化し、亜鉛版にネジ止めされた。このパネルもCatiaを使って一枚一枚形状が決められた。

名称:ビルバオグッゲンハイム美術館 Guggenheim Bilbao Museoa
所在地:スペイン、ビルバオ市アバンド・イバーラ、Abando Ibarra, Bilbao, Spain
発注者: バスク地方自治体、ビスカヤ特権州、ビルバオ市役所
管理運営者:ビルバオ・グッゲンハイム・ファンデーション(同上バスク各役所、ソロモン・R.グッゲンハイム・ファンデーション)
設計者:
建築:フランク O.ゲーリー
設計担当:Randy Jefferson
実施設計総括:Vano Haritunians
実施設計エンジニアリング事務所:IDOM, Jose Maria Asumendi, César Caicoya, Luis Rodriguez Llopis, Antón Amann, Amando Castroviejo, Rogelio Díaz
コンサルタント
構造:SOM
上下水道:Cosentini Associates
照明:Lam Partners
音響:Connant McKay, Ernesto García Vadillo
オーディトリアム:Peter George
施工業者:Derribos Petralana, Cimentaciones Abando, Ferrovial, Construcciones Lauki, URSSA, Construcciones Balzola, Estudios Arriaga, Norfro
竣工時期:1997年10月
建築本体総工費:100億ペセタ(約79億円)
設計料+備品:40億ペセタ(約31.6億円)
敷地面積:32.500㎡
延べ床面積:24.000㎡
展示面積:11.000㎡
共用スペース:2.500㎡
図書館:200㎡
オーディトリアム:600㎡
管理運営事務室:1.150㎡
ショップ:400㎡
レストラン:550㎡
カフェ:150㎡
構造:鉄骨造、RC造
階高:展示部3階、一部1階、事務室部4階
仕上げ:
外壁:0.38mm厚チタン葺き、石灰岩、打放しコンクリートペンキ仕上げ
内部壁:合板ペンキ仕上げ
床:モルタル金ごて仕上げ、展示室の一部は木フローリング
天井:合板ペンキ仕上げ

丹下敏明