IV ⑤ カルロス・マルティ Carles Marti

1948年生まれ。バルセロナ建築学校を卒業後。76年から同学校で教鞭を」とる。現在5年生の」“計画”の講座を担当。アントニオ・エルメストと共同で公園を多数実現しているほか、雑誌「2C」の副編集長も務めていた。地味とはいえ理論家としても活躍。

―まず、ズバリ、60年代から言われてきたマドリッド派にたいしてバルセロナ派というのがあるということですが、本当にバルセロナにはボイーガスの言うように“スクール”があったのでしょうか。
派とか運動というのは近代建築に限って、まず、それほどローカルなな動きというのはできなかったのだと思います。現在バルセロナ派とかミラノ派とかいうのはあり得ません。た
だし、何人かの建築家たちが集まって、ひとつの目的や論理を共有するということはあると思います。

―つまリ、バルセロナ派の建築というのは、なかったということですね。

ただし、オフィシャルな近代建築史では、やはりバルセロナ派というのが登場し続けるでしよう。だけど、この一部の建築家グループだけで建築史を語ろうというのは、非常に危険なことです。なにはともあれ、このバルセロ ナ派の吹聴によって、ちょうど生まれようとしていた多岐多様な建築の動きを、一方向のものだけとして説明しょうとしてきたことは誤りです。
昨年「50年代の建築展」という展覧会が、建築士会の展示場でありましたが、これはカタログのようなもので、片寄らない選択がされていました。例えばスピアス、リーガス・ピエラ、トウス+フアルガス、オルティス等々、ちょうど新時代の建築家たちが、合理主義の雰囲気のなかで、建築家として歩み始めようとしていた大切な時代でした。しかも、彼らのあの時代の建築というと、まったく新鮮で、新しい試みに満ちていました。我々の国は、近代建築運動が始まったのが50年代だったものですから、このバルセロナ派の建築という吹聴が、ある意味で芽をつんでしまうという結果になってしまいました。この時代に建築をやり始めて、まずまずの作品を残していながら、このバルセロナ派建築の台頭によってその後の方向を見失ってしまつたリ、埋もれてしまった人もいました。この行為は、文化的見地からすればネガテイブなことだと思います。

―そういえは、ポスト・モダンも同じような事になってしまいました。
ところで、オリンピックを契機にして、大量の建築が現在バルセロ ナで建てられているのですが、この機会にバルセロ ナの建築界は、どういう方向に進んでいくと思いますか。

全く関係ないと思う。文化的な運動と、オリンピック施設とは別ですよ。

―というと。

オリンピック施設は政治的な力関係を決定するだけであり、建築の今後の方向の決定とはつながらないと思います。

―オリンピック村は、FAAD賞を受賞した建築家たちがデザインに参加することが許されていますが、まずこのFAD賞というのはまったくの仲間うちでのメダルの分け合いという賞だから、そんなのを基準にして、オリンピック建築家にするという事自体がおかしいですよね。僕だってFAD賞の審査員に選ばれたぐらいの賞だから、まあいいかげんな賞なんですよ。もっとも出席しなかったけど。
私は、オリンピックの仕事は建築の今後ともまったく関係ないと思っている人間だから、どうでもいい話なんだ。むしろ、幸いにもオリンピック村の建築家に指名されなくてよかった
と思っているぐらいだ。あの全体計画のなかじゃ、ろくな建築はできやしない。全体計画のなかの一部だけを依頼されたとしても困ってしまう。
ピニョンやエリアス・トーレスが、あの与えられたボリュームの中で、住宅の窓をどういう形にデザインしていくかという事はどうでもいいんだ。バルセロナの市街区でセルダが計画した格子状の街区のうち、20世紀になって開発されずに残っていた地区がプエブロ・セコで、そこにオリンピック村ができるんだ。セルダのバルセロナ案を、今世紀、しかも21世紀を間近かにしてどう解釈するかということが、実はオリンピック村の一番重要なポイントなんだよ。
この一大事件をボイーガスは議論も起こさず、自分ひとりで解決してしまったんだよ。これは許されないことだ。だから先に言ったように、オリンピック・プロジェクトというのは、今後の建築の動きとは関係ないと思っている。バルセロナの建築文化というのは、実現された作品以上の豊かさを今まで持ってきたし、例え貧しい建築しかオリンピックの時に見せられなかったとしても、気にすることもないんだ。確かにオリンピックの選手村というのは、市や州政府次第というよりは、中に入っている不動産業者に大き左右されるわけだから、それでバルセロナの建築のレベルを決めてもらっても困るわけだ。
第一、もうボイーガス案は全部完成しないということが、資本投資の面から言ってもわかっている。先週あたりから不動産が下がってきたから、今後の見通しは更に暗くなってきた。

―余計なことだけど、どういう建築家や建築に興味がありますか。

ゴシック建築。あれは人間の論理が形になったものだから好きだね。オットーマン建築も非常に豊かな時代に作られたもので、現在の世界情勢と似たところがあるから、今とても興味を持って勉強しているところだ。
建築家ではミース・ファン・デル・ローエ、意見が一番よく合うのはジョル・グラッシだろうね。

AT 1990.02より