ヘンリー・ラッセル・ヒッチコック

無論大戦を挟んだその三十年間の間で変身したのはコルブばかりではない。 建築評論の大家ヘンリー・ラッセル・ヒッチコックは『彼(ガウディの)の作品は確かによいものでも必要なものではない。 一九二一年に作られたエリッヒ・メンデルゾーンのアインシュタイン塔のデザインの原理に著しい類似性を与えているものである…』と一九二九年版の『近代建築』 の中でガウディを評して当時の機能合理主義時代を反映した明快な意見を書いている。 これがその後の一九五八年、彼のガウディへの評価は急転換している。 ヒッチコックは『十九世紀から二十世紀の建築』でその前身である『近代建築』全般に大幅な書き込みを加えているばかりか、ガウディに対する価値基準もすっかり変えているのだ。
この著作では『・・・しかし、七十年代にバルセロナで始まった、スペイン人、いやより正確にはカタルーニャ人といった方がいいのだろうが、建築家アントニ・ガウディによって一九〇〇年前後に作り出された、もっとも果敢でオリジナルな近代建築の初期の作品が産み出されてったのだ。』  あるいは、『スペインの建築家(より正確にはカタルーニャの建築家と言った方がいいかもしれないが・・・)アントニ・ガウディ・イ・コルネット(1852-1926年)は十九世紀あるいは二十世紀が産み出したパーソナリティーに富んだ最も強烈な一人であった。』
ヒッチコックはこの稿を書く頃、ガウディの生誕百年を記念したMoMAでの一大展覧会 の開催を準備していた。 その展覧会カタログで彼は『構造においても装飾においてもいずれも素材を生かし、その使い方に長け・・・(中略)。ガウディはライトと同じように「素材の本性」というものに魅了されているものの、彼のさまざまな自然に対する感受性はコンヴェンショナルなというようなものではなく、むしろイマジネーションに富むものであった。』  と書いている。
無論建築の状況は一九二九年と一九五八年では大きく変化していたわけだから、ガウディへの評価のこの変化も当然といえようか。