屋根裏階

柱構造であることが明快わかる工事中のラ・ペドレラ 

後年ここを訪れたル・コルビュジェが「何と構造の凄まじい支配であろうか。」と言ったように、もっとも構造的な漸新なおもしろさは、パラポラ・アーチを連置して築かれた屋根裏階(現在のEspai Gaudí, 当時の使用人が使うスペースで洗濯場などがあった)であろう。 スパンの違いから、せいの高低を生み、曲がりくねってゆくさまは、人を鯨中のピノキオに変えてしまうのである。
このメルヘン的なファンタジーは屋上の煙突群で頂点に達する。 屋根裏階のパラポラ・アーチの高低差は屋上のスラブにそのまま起伏となってあらわれ、そこにエレヴェーター・タワーや階段室、マントルビースの煙突や換気用の煙突がさまざまな表現をつけられて並んでいる。 この種の遊びはガウディの空間を特色づける大きな要素となっているものであり、我々がすでに忘れてしまったものでもある。 バルセロナの前衛彫刻家スビラックスはラ・ペドレラを「実現された最大のアブストラクト・スカラプチャー」と呼んでいる。 ファサードは無諭のこと屋上の煙突をはじめエントランスの天井画、バルコニーの鉄細工、波打つ天井、レリーフにゆれ動く建具、地・海・空を表現した床タイルなど豊かなイコノグラフィーを秘め、そしてそれらが生み出す柔らかな住空間のアブストラクト。 しかもそれはガウディの人生と折り重なったところから、テクノロジーにおし殺されることなく、既成の審美眼に犯されることなく、しかも人間が支配しえない自然の法則に調和して生まれたのであり、また今も多くの生活を包み込んで生き永らえ、これからも生き長らえていくだろうことがおもしろいではないか。

建設当初の屋根裏家階