バルセロナのガウディ建築案内番外編(21)

レス・サレーセスの教会Iglesia de les Saleses (1877〜85年建設) 
学生時代は教室にはあまり姿を見せず、図書館に通い、何よりもアルバイトに精を出していたガウディ。そこにはアカデミックなことが嫌いだったガウディの側面が見える。両親の職人の家系の血が通っているからだろうか。こうして実務経験を確実に積み、空論ではなく建てる建築を学ぼうとしていた。このためにアルバイトにかける時間がすさまじく、級友の間では家族を養っていたのではないかと噂されるぐらいだった。その内でも尊敬していたのがジョアン・マルトレイ(Joan Martorell i Montells, 1833 −1906年)とフォンセレであった。逆にビジャール(Francesc P. del Villar Losano, 1828−1903年)には好感を持っていなかった。
マルトレイの設計していたこの教会には若きガウディの手が明らかに入っている。全体としてはマルトレイの世代で使われたネオ・ゴシックで設計されているのだが、レンガの積み方はスペイン独自のスタイルであるムデハル・スタイルとも言える。これは間違いなくガウディの世代のスタイルだ。しかも、そのレンガにキヤロオスクーロを付けようという工夫がされていて、セラミックが貼りこまれている。更にとてもマルトレルの世代では発想する事もないであろう床のモザイクが面白い。これはランダムにテクスチャーだけを探した具象とはかけ離れたアヴァンギャルドなものに仕上げられているからだ。確実にグエル公園の円熟のガウディの先駆けが見れるが、それを師の目を忍ぶように控え目にやってのけている。製作は当時の有名なモザイク師ルイジ・ペジェリン(Luigi Pellerin)が担当していてガウディのサインはもちろんマルトレイのサインもないのにこのモザイク師のサインが教会の入り口にある。教会は修道院付属の教会堂であるので、もちろん修道院の方もガウディは手を出したことだろう。教会とはメリハリを付けて質素でどこでも使われていないディディールが見える。その一つが軒先である。雨の少ないバルセロナではどこも垂れ流しが多いというのにすでにこの頃にガウディは雨の処理に気を使っている。
ガウディとマルトレイの協働は学生時代からあったわけだが1884年サグラダ・ファミリアのプロジェクトが本格的に動き出した1884年にマルトレイの事務所を離れている。つまりガウディは最後まで現場を見ていなかったことになる。
所在地:Passeig de Sant Joan, 86-92
アクセス:地下鉄Verdaguer(L4, L5)下車5分。ミサのある時間は内部の見学も可能。