ムデハル・スピリッツ

しかしこのレンガという建材にはもうひとつ言及しておかねばならない。というのも輸入様式であるロマネスクは、その輸出国に豊かであった石を主材としているのだが、サアグンを始めとした多くのスペインの地方では、良質のものを産出せず、遠方からたとえ運び込ませるにしろ、中世スペインの道路事情は最悪で、サアグンでは石の値段は銀の値段と同等といわれたほどに高価になってしまうのであった。それに回教徒たちは、石工は苦手で、逆にレンガを使わせると、巧みに大架構を築いたし、その方が見ばえさえした_。
579年、西ゴート王国の首都が設置されて以来回教徒支配期を通じて繁栄を続けたトレード市には同様の問題があった。一方では廉価な回教徒の労働力があり、他方ではきわめて悪質な石材しか産出せず、それに加えて庶民から貴族まで、回教徒らの高い文化水準に憧憬していた。こうしてこの街のほとんどの景観を装ったものがムデハールである。

サアグンのサン・ティルソ教会
1982年9月24日撮影