ベジュスグアルドの引用

ランドスケープ的配慮は、ある意味ではガウディの常なる関心事であった。例えばビセンス邸の敷地に咲いていた黄色い花をセラミックのデザィンに残すというようなメランコリックな方法から、見知らぬアストルガの地を知るため司教に街の主要モニュメントの写真を依頼したこと、またその地を訪問する機会を得た後には出来上がっていた計画を直ちに練り直していることなど、既に見た通りである。ベジェスグアルド邸はれんが造であるにもかかわらず、この美しい周囲の環境を保存するために土地の石によって外被が付けられた。しかもカメレオンのような周到さで、灰色、緣色、茶色という様々な色で、また荒削りで様々な形をした石を使っているのである。
ベジエスグアルドの計画中、実現されたのはその一部分だけであった。主館となる建物は塔を頂いたゴシック様式で、この様式こそマルティン王時代、つまりカタロニア全盛時代のそれなのである。平面は方形になっているが、正面入口の部分をわずかに引き出していて、正面ファサードの垂直性を強調している。それを助長するように、縦長の窓、そして塔がその先端を飾っているのである。
全体としてはパラペットに女墻を切るなどして中世小城郭のスタイルに仕上げている。正面ファサードは壁面の自然色に対して中央エントランスの両脇に多彩色セラミックが張り付けられたモザイクがあり、あるいはその上部のバラ窓の彩色ステンドグラスが全体へ生気を与えている。このセラミックのモチーフには縞があり、王冠を頂いた二匹の魚が使われているが、これは中世地中海におけるカタロニアの制海権をシンボライズさせたものである。同様に上方のステンドグラスは黄・紫・緑で彩られた星が見られるが、これは東方三資人が見た星を示すのであり、実現されなかったのだが中央エントランス上方、ティンパノ部分には三資人が表現されるはずであった。しかしながらこれらのふたつのエレメントは同時に時代的風潮、つまりアール・ヌーヴォーに呼応したものである。

境界壁は中世
1972年3月撮影


門扉
2009年3月8日撮影