インタビュー9 Entrevista a Pilar y Rosaria

★修復の現場から見た修復の論理と手法
ピラール・ディアス+ロサリア・アロンソ

−PD.モニュメントのフィジカルな修復について触れたいと思います。私が思うには普 通建築家が工事を監理するわけですが、建築家は彫刻とか絵画あるいはセラミックとい う特殊な、つまりいわゆる建築以外の問題に出会った時にスペシャリストを呼ぶのです が、ここで問題となるのはプロジェクトの段階でスペシャリストの介入がないことです。 現場に入ってから時に相談を受けるというのがせいぜいです。問題は建築家がすでに修 復工事を担当できるタイトルを持ち合わせているわけですから、どういう修復専門家を 雇うかにあると思います。建築のなかでセラミックあるいは考古学的遺物が見つかった、 または見つけられると予想される場合、その分野での専門家への相談すべきではないの でしょうか。建築家は彫刻とかセラミック、その他の特殊なものについての一般的な知識しか持ち合わせる必要がないわけで、我々は修復の仕事を発注する時建築家が現場を見るのはいいと思うのですが、その他の部分というのは建築家だけでは見きれないのです。これには社会的な問題があると思います。
−法的にも他分野との専門家と責任を分担するという義務はありません。これについての 社会的な関心というのもありません。世間自体がこの分担責任を要求していないのです。
−PD.人々は予備的な作業と事後にはよく口を出すものです。事後というのは誰かの作 品を批判するという意味ですが、しかしこの中間のプロセスについては口を出さないも のです。
−RD.問題は工事を見ていくコミッショナーというのがないからだと思います。共同責 任というところで言えばコンセプトが最大の欠点で、プロの養成というのも大切だと思 います。例えば建築の分野ではプロを教育するのに5年間の長く、厳しい期間を必要とします。建築家はスペースをつくるという意味では彫刻家や画家とスケールこそ違いますが同じことです。それにもかかわらず修復家というのは育成期間があまりに短い。これは建築家というのがクリエーターで、修復専門家というのは技術者として他の人がつくったものを真似るという事でしょうか。
−イタリアでは50〜60年代に活躍した現代建築家というのは修復の分野でも活躍しま した。本来は修復専門家というのはクリエーターの精神を持って出発しました。
−PD.絵の修復をする人たちは美術学校を卒業し、大半の修復をする人はクリエーター として美術を学んでいたのだけども生活していくための手段として修復の仕事をしてい くという人も多いのです。
−RD.建築家あるいはアーティストで感受性を充分備えていれば特別の教育を受ける事 もないはずです。修復専門家というのは純然たる技術者としての教育を受けるべきで、アーティストの分野には足を踏み入れないこと、技術者としての修復専門家のプロはまず材料の性質をよくのみ込んでいること、また美術史の知識があって感受性があり、修復するものを理解でき、その作品としてのスピリッツを感受できるが、決してクリエーターとしては行動しない、しかも何か新しいものはみじんも持ち込まないことをはじめから決めています。これはガウディの作品の修復で見られるのとは少し違うことです。ガウディの作品では何かを持ち込んでいます。修復専門家たちの意見は正しいかもしれないが、我々の意見もそうかもしれないというようにあまり根拠のないことです。
−PD.修復というのはつまり主観的なものです。いろんな読みとり方が修復対象が同じ ものでも随分あり得るからです。
−RD.グエル館の屋上の煙突の場合、ガウディではない新たな人がセラミックを張って 別のものを持ち込むというのは価値感、趣味、審美など主観的な決断に左右されるわけで問題でしょう。セラミックの仕上げを崩れていた煙突を修復するために新たに張り直したというのは悪くないでしょうが、ここで区別しなければならないのは保存と修復の違いであると思います。保存というのは例えば美術館などでキューレーターが絵画の湿度や温度をコントロールし、もしそれが傷めばもとのように復元する。これが保存ですが、建築でいう修復とは少し違うと思います。修復とは保存の次ぎのフェーズだと思います。まず、保存。そして歴史あるいはアーティスティックな価値が失なわれようとしている時にその後の破損からこれをプロテクトするために行なわれるのが修復です。
−PD.ここで始めてクリテリオンが発生してくるわけです。議論は建物の一部が破損し ている場合に修復の専門家へ依頼すべきか、クリエーターへ依頼すべきかです。前者は歴史的な事象を誤る、後者はオリジナルの持っていたスピリットを誤解する可能性があります。重要なのはガウディの創造的なスピリットで継承すべきで、これは修復工事であろうが同じで彼の作品の持つ意味を受け継いでいく必要があると思います。重要なのはガウディの最晩期の作風に留まっているのではなく、ものをつくり出すという創造性のスピリットを継承すべきで、この意味からグエル館の屋上の煙突は正解であり、サグラダ・ファミリア教会の建設続行の方法というのは間違っているのだと思います。
−RD.また作品が生まれた時代というのは大変重要で修復をする時には基本的な事であ ります。建築物の修復のスタンダードなチームというのは建築史、建築家、そして構造設計家、あるいは保存状況を判断できる人々ですが、これでは範囲が狭すぎ、これは幅を広げるべきであると思います。これは競合し合うというのではなくそれぞれの専門家たちが知識を持ち寄るという意味です。またよく起こるのは実際に施工に当たる業者が現場監理のチームの意向と意見を分かち合わないという事があります。修復専門家の育成ではいくつかの学校がいろいろなレベルであります。「グループ・テクニック」というのは修復保存の専門家たちが集まる協会ですが、正式な修復専門家としてのタイトルを得られるのは美術学校を卒業した者に限られています。つまりその他の卒業証明書は今だ正式なものとは公に認められていません。このことから修復専門家として活躍している人の多くは正式なタイトルを持っていない事になります。これが今最大の問題でしょう。

*Pillar Diaz 
1957年生まれ。大理石、セラミックを専門にする修復専門家。美術史を学ぶ。実現作のうちにはジュジョールのスペイン広場のモニュメンタルな噴水(1992年修復工事)などがある。
*Rosalia Alonzo
1961年南スペインのセビリア生まれ。スペインでセラミックを学び、イタリア・ファエンッアにてセラミックの修復を専攻。現在バルセローナでその分野にて活躍。

at
1994年8月号
”ガウディを蘇生する”より
続く