IV ⑦ エミリー・ドナート Emili Donato

1934年、フィゲーラスに生まれる。父が哲学者。先後バルセロナに家族で移住。美術学校へ入学するが、途中で建築に転向。60年バルセロナ建築学校を卒業。独裁政権時代には、共産党員として入獄の経験もある。現在は自称レジスタントの建築家として孤立した設計活動をしている。

15年間の戦いだつたね。ゼネコンの現場責任者が5回もかわったんだ。
マドリッドの本社幹部に談判に行って、もっとましな技術者を送り込まないんだったら、どんどん損をするということまで、忠告やら脅しをかけたりしたこともあった。
第一、入札額を設計見積もりより16%低くして、それで落札するといういつもの手を使う。しかも、落札から着工まで3、4年あったから、この間のインフレで、もうかるわけがない。
工事は、何度もゼネコンの手で独断的に中断されてね、ひどいものだった。

―最近はともかくとして、あなたが卒業された60年というと、建設ブームでスペインは大変な景気でしたね。

何しろ、建築家の数が少なかつた。2千入か3千人というところかな。逆に、今の建築家は仕事の絶対量というのが少ない。現在2万5千人以上全国にいる。あの頃は、自宅に机を並べておけば、仕事がくるという時代だった。
学生時代にジューネブへ、留学生として数か月行ったことがあるんだが、25人の事務所員がいたけど、驚いたことにドラフトマンは、俺とイタリア人の学生だけで、あとはれっきとした建第家ばかりだった。スペインではまったく逆で、1〜2人が何10人というドラフトマンを使っていた時代だった。
ろくなものができるはずがない。幸いにも今では、ドラフトマンというのがいなくなってしまった。

―ところで、あなたの作品のスライドと模型を見せていただきました。フォーマリストでは決してないのですが、非常な慎重さでコンポジションスタディがなされていて、現在の混乱したバルセロナの建築や都市のなかにあっても、また現在の世界の建築の傾向のなかにあっても、逆に新鮮だと思うのです。あなたは、何をされようとしているのですか。

実はこの間、トウールーズでシンポジウムがありまして、それに参加しました。フェルナンデス・アルバ、エドゥアルド・スビラッツ、ビーター・ブーへナー、ガルシア、それに数人のアメリカ人の建築家が出席していました。
この議論の中心となったのは、建築が都市を作りうるかといぅテーマでした。そして、作りうるとすれば、どういうタイプの都市ができるのか、という議論が展開されました。
なかなかおもしろいテーマでしたね。

―なかなかおもしろいテーマでしたね。

ヨーロッパの都市というのは、モルフォロジー的にもひとつの関連があり、その境界もはっきりとしたものでした。ところが現代建築というのは、惑星が炸裂したようなもので、都市の構成とは関係なく、いたるところに散らばって輝いています。
これは大変なことなのです。統合が分離に、オーダーがコラージュに、グローバルなものが対極したものになっています。現代でもてはやされている建築というのは、器用なやつがフラグメントをつなぎ合わせた、派手で写真うつりのよいものなのです。
大切なのは、こういう状況にあって自分はどういう姿勢で立ち向うかということだと思います。

―それであなたの姿势は……。

私は、こういう風潮にある建築の中で、レジスタンスをしようとしているのです。意識的に逃げている建築なのです。
現在の風潮というのは、単なるエピソードであり、フラグメントの寄せ集めであり、コラージュであり、重複であります。こうすることによって、大衆を惑わせています。変身の早さも、彼らの使う手のひとつです。
こういったことに対するレジスタンスを、俺はやっているんだ。絶対に現在のような建築が続くわけがない。俺の生きている間は、続くかもしれないけど。こういう動きとまったく開係したくもないんだ。今はサーカスと同じようなものだ。そんなものを作るよりは、内部に力強いものを持ち、正直である作品を作りたい。
もっとも、そんな才能もインテリジェントも持ち合わせていないんだけど、日々の努力をしたいんだ。俺の理想としている建築というのは、外観は筋肉隆々とした、比ゆ的にいえばエジプト建築のようなもので、内部は逆に軽快でやさしく、甘くすらあり、活力に満ちた建築というのを作っているつもりなんだ。

―あなたの建築は、非常に貧しい材料でつくられていますが、材料はどうでもいいとお考えなのですか。

とんでもない。何せ金がないから、レンガばっかり積んでいるんだけど、貧しい材料の建築を作ろうというつもりはまったくない。でも、学校で学生に演習をやらせる時には、まず日干しレンガを最初に使わせるね。
何もアルミや大理石といった、高価な材料を拒否しているんではないんです。だけどまず、我々の国は貧しいんだから、ノーマン・フォスターが使うような材料はリアリティがないんだから、演習の時には使わせません。


―86年にあなたが5年間戦ったレンガのアバート群ですが、何と平米2万800千ペセタ(約3万円)というコストだったそうで、まったく信じられないことですが・・・。

でも現在では4万、近いうちに5万ぐらいになるだろうから、他のヨーロッパ諸国と同じになってしまうのは眼にみえている。

―あなたは、巨匠コデルクに好意を寄せているようですが……。

とても好きな人でした。彼は、良い建築をつくるには「作りたいと思うこと、愛すること。そして忍耐を持つこと」といっていました。

AT 1990.02より

後記