IV ⑧ ジュセップ・ジナス Josep Llinas

個性は建築家としてはバルセロナ一.作品の数も少ないのだが、彼の信奉者は多い。人間味もさることながら、空間の職人芸を磨き上げているのが彼だ。

―このインタビューでは、いつも最後にどういつた建築家や建築作品が好きなのですか、という質問をすることにしているのですが、あなたの場合はだれが好きなのかを知っていますから、なぜ、どういう形でジョセップ・マリア・ジュジョールというおかしな建築家が好きなのですか。あなたの作品のなかに、ジュジョールのよ、つなシュールレアリスティックな作風は見られないのですが。どういうところで、ジュジョールとあなたは結び付いているのでしょうか。

ダイレクトな影響はまつたくありません。僕の場合、ジュジョールを建築家としてみていないのです。建築の文化というより、むしろポピユラーな文化に、ジュジョールは接近しているからです。そこに僕はひかれているのです。

例えば、日本では現在、ハイテックよりは、ポピユラーな文化に根ざした建築なんかに興味が持たれているのですが、あなたの建築はどうなのでしょうか。失われていく職人芸を、なんとか温存しょうという風にも見えますが。

ジュジョールの場合、神秘主義者であり、例えば聖母マリアに捧げるとかいうことが、デザインの中で生かされています。もちろん、僕の作品というのはまったく違います。

―それは、あなたの置かれている状況というのが、まったく違うからでしょうか。

まあ、そういうことです。それに、建築とは目的ではなく、手段だと思っていますから。この点がキーポイントで、これをどう判断るかによって、それぞれの建築への立ち向かい方が違ってくると思います。
ジュジョールは、ある種のことについては豊かな知識を待っていましたが、反面常織ということからすれば、まるで別の世界に住んでいた人です。まったく別の建築の世界から関係ない作品を残していました。ところが現在我々は、ジュジョールが許されたような無邪気ともいえる世界には、生きることができなくなつてしまいました。

―その意味で、世界の建築雑誌というのは、見せられるものだけが登場するわけでしょう。ジュジョールのように、見えない部分を多く含んでいる建築家ならば不運でしょうね。

まつたくそうです。

―ライトは「写真うつりのよい作品が現代建築の名作だ」というようなことを言っているのですが、そういうことでしょうかね。あなたの作品は、あまり雑誌には出ませんがそういうことでしようか。

まあ、作品の数が少ないからでしょう。
そういえば、最近読んだシェーンベルクの手記のなかに、「私は美しいコンポジションを求めるのではなく、妨害しうるものを求める」というようなことがありましたが、これはそれぞれの人によって、目指すおのが違うわけですから……。私の場合は、問題を起こさないところで、きれいなものを作るということです。

―それではあなたの作品を説明してくれませんか。

最近完成させたものは、考古学博物館の内装です。この建物は、ご存知のように29年の万博のパビリオンだったもので、中央にホールがあり、それから腕が出るというプランです。75年に博物館としてオープンしてからというもの、現在までに迷路のようなプランができ上がってしまっていたのです。シンプルな構成で、屋根も美しい形をしていたので、屋根のある階を展示スぺースとして見せたいと思い、吊り天井を外し、逆に下階へサービス・スぺースとしてみました。
もうひとつ最近完成した建築は、エンジニア学校。これは、バルセロナのポリテク二ック大学が校舎の敷地を割りつけ、そのなかに建てられた小さな箱のような作品です。今学期から校舍として使うために、すでにでき上がっていますが、まだ外工事ができてい
ません。2層で上階にトップライトがありますが、これはきれいに仕上がつたと思っています。

―実は今、日本でバルセロ ナの建築家たちが活躍していて、オスカー・トウスケッッは集合住宅の設計を、ボィーガスはレレクチャーに行きました。彼らの日本での評判はというと、いずれもすごくまじめで、堅い話や設計をするということです。
今、手元に偶然日本の建築雑誌を持っていまして、最近の安藤さんのビッグ・プ口ジェタトが出ているのですが、ちょつと見て下さい。

なんとタマゴですね。ヒェー、本当にタマゴ(スペイン語ではキンタマという陰語)ですね、これは。これはスゴイや。

―だから、あなたたちのプロジェクトの手法や几帳面さに、日本の人々は新鮮なショックを受けるのです。

もっとも、最近のオスカー・トゥスケッツは少しアカデミックになってきたから、余計そんな感じを受けるかもしれない。それにボイーガスだって、外へ出るとかなりまじめなことを言うしね。

―しかし、あなたの作品も本当にまじめな作品といえば、いえますね。軸は通っているし、窓や入口は開いていなければいけないところに、きれいに切り取ってあるし。

まったく日本に対しては、違ったイメージを抱いていました。あなたたちが今、モンジユイック丘でやっているパラウ・サン・ジョルディの体育館にしても、非常な慎重さを積み重ねて設計していると、何人もの人から聞きましたから、ちょっとこれにはびっくりしました。


AT 1990.02より

後記

現在ジナスが改装した部分。また一階は展示室としてさらに改装されています。

一階部分の設計者は
Jesús GaldónとSilvia Castro