IV ⑩ モンセラート・リーバス Monserrat Ribas

1947年生まれ。72年バルセロナ建築学校を卒業。78年以降同校でドローイングの」講座を担当。現在ではパースの流行作家として押しても押されない第一人者。

私のプロフェツショナルとしての最初の仕事は、ボイーガスから依頼されたパースでした。バルセロナの南のアリカンテに針两されたアバートメントで、今から15年ほど前のことでした。
このプロジェクトのプ口モーターが売れるための “絵”を欲しがっていました。ところが、プロジェクトの方はまったくのアイデア段隨で、数地が小高い丘の上だったものだから、小高い丘の上に建つ“いもむし”というイメージがあっただけです。でもまあ、なんとか成果品として提出しました。プロモーターにも受けがよく、もちろんボイーガスも喜んでいました。

―それでは、あなたがそのアバートメントの設計料をもらったんですか。

いいえ。しかも悪いことに、このプロジェクトはパースまでで、それ以上進展しませんでした。でもボイーガスは、このパースを作品集やら雑誌にたくさん出したので、一躍私も知られるようになりました。私は、この仕事を契機にして実際の設計の仕事よりパースを描く仕事の方が適しているのではないかと思うようになり、それ以降実務からは遠ざかりました。

―建築の仕事はそれ以前にされていたのですね。

事務所建築とか商店、それに夫も建築家ですから、共同でやった仕事もありました。でも、夫と一緒には絶対仕事ができないということがわかりました。私はたぶん何かを創り出すということが苦手なのです。あるものを展開していくほうが私の性に合つているのではないかと、ボイーガスのパースで思ったのです。

―その記念すべきボイーガスのパースというのは、どういう手法を使つたのですか。

当時としては、めったやたらと高価なパースでした。ロットリングの点描写で描いたのです。1点1点を違った太さのロットリングを使って描きましたから、大変な作業量ですし、何しろ一点の無駄やまちがいも許されません。クリエのドローイングの手法より、私の方が早かったと思うのですが。

―その後はパースの専門家として、現在にいたっているのですね。

建築学校でドローイングを教えていますが、それ以外は今でもパースを描いています。

―その他、どういう仕事をされましたか。

実はボイーガスの仕事の前に、ひとつ大きなドローイングを描き上げました。建築士会の古文書室のディレクターだったサルバドール・タラゴの依頼で、18世紀のバルセロナの全景を描かされたのですが、11メートルの長さになってしまいました。建物をひとつひとつ18世紀の姿に歴史考証をしながら描いていくという、根気のいる大作業でした。“絵”としては失敗作でした。

―つまリ、あなたの場合はもともと、依頼者のあまリ正確でも十分でもないインフォメーシヨンを整理しながら、ひとつのかたちとしてまとめ上げるという作業なわけですね。

私はクラスでも学生によく言うのですが、それぞれのものの違いをよく見極めて、ものを知ることがまず第1だと思います。建築を描くということは、建築がわからないと描けません。

―パースはどういう建築家たちのを描きましたか。

まず、ほとんどの建築家たちと共同しましたから。

―誰との仕事か一番おもしろかつたですか。

まずオスカー.・ウスケッツでしょうね。私が彼と仕事をし始めた頃というと、スタジオPERが分解し始じめる時期でした。プロジェクトのそれぞれの部分を、4人の建築家がやたらと入り組んだ方法で担当していて、誰がどの部分を担当したのかという分析から、始めなければなりませんでした。オスカーはその頃レクチャーに疲れ果てていて、建築のデザインに専念したいという頃です。彼の仕事というのは私がやりたいことを、かなり自由にやらせてくれるので、結果的にもいい仕事になったと思います。

―でも、現在の彼はかなり逆で、業者やメーカーをいじめ抜いて、プロジェクトの段階からかなりリアリティのある、しかもちよっとした冒険をしながら図面を描くということで知られている、数少ない建築家ですが。

彼も実作建築家としてこの10年間に、かなり成長したからでしょう。
もうひとリ共同していて楽しい建,というのは、ラファエル,モネオでしようか。彼はオスカーとはまったく逆のタイプで、何の自由も与えない建築家です。
打ち合わせのために彼の事務所へ行く前に、彼は私にこう言いました。「あなたの手先から出る、いかなるものも私の作品であることを忘れないでほしい」ってね。だけど、彼が全てのことに目を通すのには、まったく感心します。図面はもちろんですが、見積りからスペックまで、果ては、請求書やコピー屋さんでコピーを受け取つての郵送まで自分自身でするのには、少々びつくりしました。

―あるものを展開していくことの得意なあなたでも、パースを描くというのは大変ですが、一番苦労されるのは。

何しろ誰もが、何もかも描かれていることを望むのには困ってしまいます。私のパースにはピアズリーゃミース、コルの家具といったものが描かれます。皆んなこぞって、そういうものを描き込んでくれといって、それが一番困りますね。ろくでもない作品が多いんですから。

AT 1990.02より