コロニア・グエル教会の構造

これよりもっと不解なことはコロニア・グエル教会で、この計画はガウディが十年間かけあのカテナリー模型 を使って設計したが、実際には地下聖堂しか完成できなかったというプロジェクトである。 このカテナリー模型はすでに見てきたように、想定したプランを板に描いて天上からつるし、荷重を皮袋に入れた鉛に置き換え、これを紐からぶら下げることで、リブが描かれ、これを写真に撮り逆転することで、実際の力の流れが、建築の形に対応するというものだ。 ガウディはこの写真の上にグワッシュで外観や内観の絵を描いているから、地下聖堂はむしろこの懸垂模型のレプリカの一部が完成したと言える。 それほど周到なスタディをしたアンビルド作品だ。
ところが、現代の研究者が既存の地下聖堂の実測図から構造解析をし、それに残されている懸垂模型の写真から地上部分を書いて全体像が分かってくると、必ずしも構造的な合理性をガウディは追及していないのではないかということが分かったのである。
まず、地下聖堂を完成するのみで、90年近く経とうとしているのにこの構造的にすら完結していないはずの不安定な構造体がどういう大きな問題もなく建っていることである。 地下聖堂の上部荷重を受けるヴォ‐ルトの水平応力を押さえるファサードの壁がないという構造的な非常識さもある。
どうやらガウディの興味はカサ・ミラでもコロニア・グエルでも構造的な制約の中でどこまで柱の位置を反合理的な限界までずらすことができ、既存概念をデフォームし独自の空間が出来るかということに興味の対象を徹していたということがこれで分かったのである。 これはテーゼとしては二十世紀の初期に蔓延し、六十年代までも引き継がれた機能合理主義よりはほど遠いものであり、むしろバロックに近いのだ。
しかもベルニーニなどという華奢で線の細いバロックではなく、ボッロミーニのような骨太な空間のディナミズムを求めたバロックであったのだ。



フライ・オットーが修復再現したこの模型(1983年)が現在サグラダ・ファミリア教会内のミュージアムに展示されている。

Revista Loggia Arquitectura & Restauración, Año 3 Nº9, Universidad Politécnica de Valencia, Servicio de Publicaciones.

Albert Casals Balagué, José Luis González Moreno-Navarro, Pere Roca Fabregat共著, Análisis estructural de la Cripta de la Colònia Güell, Quaderns Científics i Tècnics, 1993年、375頁。